金融資産と債権譲渡:取得・評価・リスク移転を分ける
有価証券の取得目的、期末評価、債権譲渡の消滅認識、買戻権・遡求義務の見方、デリバティブの入口を、定義・認識・測定・検算の順で整理します。
動画の視聴は会員向けですこの講で分かるようになること
取引目的とリスク移転から、資産の認識・消滅を説明できる。
- 有価証券を取引目的に応じて整理できる。
- 債権譲渡でリスク移転の有無を判断できる。
- 買戻権・遡求義務が消滅認識に与える影響を説明できる。
前提知識
- 日商簿記2級の基本論点。
要点
- 有価証券は保有目的によって認識後の扱いが変わる。
- 取得時の処理と期末評価の処理を分けて考える。
- 債権譲渡は現金化の事実だけでなくリスク移転の有無で判断する。
- 買戻権・遡求義務は債権の消滅認識に重要な手掛かりとなる。
- デリバティブは契約の目的と評価の方向を入口として押さえる。
判断のルール
- 定義を確認してから認識の可否を判断する。
- 認識した後に測定方法と損益の計上箇所を考える。
- 債権譲渡では条項の有無だけでなく責任の残り方を確認する。
- 計算後は帳簿価額、受取額、差額の関係で検算する。
例題
例題1売買目的の株式を取得し、期末に時価評価するケース
A社は短期の値動き益をねらって株式を購入した。取得価額は480,000円、購入手数料は20,000円、合計500,000円を当座預金から支払った。決算日にこの株式の時価は530,000円であった。必要な処理を示しなさい。
答え(取得時)借方:売買目的有価証券 500,000/貸方:当座預金 500,000 (決算時)借方:売買目的有価証券 30,000/貸方:有価証券評価益 30,000
考え方まず、短期の値動き益をねらっているという事実から、保有目的は売買目的と判断する。次に取得時は実際の支出額で資産計上するので、取得価額480,000円と手数料20,000円を合わせて500,000円を計上する。決算時は売買目的であるため時価評価を行い、帳簿価額500,000円を時価530,000円へ修正する。差額30,000円は当期の評価益として認識する、という順で考える。
確かめ取得時は借方500,000円と貸方500,000円が一致する。決算時の評価差額は530,000円−500,000円=30,000円。修正後の帳簿価額は500,000円+30,000円=530,000円となり、時価と一致する。
例題2遡求義務のない売掛金譲渡で消滅を認識するケース
B社は売掛金1,000,000円を金融機関へ譲渡し、手数料20,000円を差し引かれた980,000円が普通預金に入金された。契約上、回収不能が生じてもB社は補てん義務を負わない。必要な処理を示しなさい。
答え(債権譲渡時)借方:普通預金 980,000、売上債権売却損 20,000/貸方:売掛金 1,000,000
考え方判断の中心は、売掛金を譲渡した事実だけでなく、回収不能時の責任が残るかどうかである。本件は補てん義務を負わない、つまり遡求義務がないため、売掛金に関する主要なリスクは譲渡先へ移転したとみる。したがって、売掛金1,000,000円は消滅を認識する。受け取った普通預金は980,000円なので、差額20,000円は譲渡に伴う損失として処理する、という流れになる。
確かめ借方合計は980,000円+20,000円=1,000,000円、貸方の売掛金1,000,000円と一致する。売掛金は全額消滅し、受取額との差額20,000円が損失として整合する。
例題3遡求義務があるため借入れに準じて考えるケース
C社は売掛金800,000円を担保的に差し入れ、金融機関から790,000円の入金を受けた。契約上、売掛金が回収不能となった場合はC社が全額を補てんする。手数料10,000円が差し引かれている。必要な処理を示しなさい。
答え(資金受入時)借方:普通預金 790,000、支払手数料 10,000/貸方:短期借入金 800,000
考え方ここでは『売掛金を渡した』という外形より、回収不能時にC社が全額を補てんするという事実が重要である。遡求義務により、売掛金に関する主要なリスクをC社がなお負っているため、売掛金の消滅をそのまま認める考え方はとらない。実質的には売掛金を裏付けに資金を受け入れた状態と整理し、受取額790,000円と差引手数料10,000円を合わせた800,000円を負債として処理する。したがって、売掛金は帳簿に残し、別途、借入れに準じた処理を行う。
確かめ借方合計は790,000円+10,000円=800,000円、貸方の短期借入金800,000円と一致する。売掛金は仕訳で減っていないため、リスクが残っているという判断と整合する。
よくある間違い
有価証券の名称だけで処理を決め、保有目的を確認しない。
取得時の処理と期末評価の処理を同じ場面として混同する。
債権譲渡で現金受取額だけを見て、リスク移転の有無を見落とす。
買戻権や遡求義務の文言を読んでも、責任の内容まで検討しない。
この講の用語
- 有価証券ゆうかしょうけん
- 株式や社債などの金融資産で、保有目的に応じて取得後の評価や損益認識の扱いが異なる対象。
- 債権譲渡さいけんじょうと
- 売掛金などの債権を第三者へ移転する取引で、会計上はリスクや経済的利益の移転状況を踏まえて消滅認識を判断する。
- 買戻権かいもどしけん
- 譲渡した資産を一定条件で再取得できる権利で、資産の消滅認識を考える際の判断材料となる。
- 遡求義務そきゅうぎむ
- 譲渡した債権が回収不能となった場合に、譲渡人が補てんなどの責任を負う約束。
- デリバティブでりばてぃぶ
- 金利や価格などの変動に基づいて価値が動く契約で、通常の現物資産とは異なる性質を持つ金融取引。
章立て
- 0:00導入この講の到達目標と、問題文を読む出発点を確認します。
- 0:22中心概念有価証券、債権譲渡、買戻権・遡求義務、デリバティブの入口
- 1:09重要用語有価証券、債権譲渡、買戻権、遡求義務、デリバティブ
- 2:01基本ルール定義を確認してから認識の可否を判断する。 認識した後に測定方法と損益の計上箇所を考える。 債権譲渡では条項の有無だけでなく責任の残り方を確認する。 計算後は帳簿価額、受取額、差額の関係で検算する。
- 2:41判断手順取引事実または計算条件を確認し、使う勘定科目・計算順序・検算の順に進みます。
- 3:13確認ケース1A社は短期の値動き益をねらって株式を購入した。取得価額は480,000円、購入手数料は20,000円、合計500,000円を当座預金から支払った。決算日にこの株式の時価は530,000円であった。必要な処理を示しなさい。
- 3:39確認ケース2B社は売掛金1,000,000円を金融機関へ譲渡し、手数料20,000円を差し引かれた980,000円が普通預金に入金された。契約上、回収不能が生じてもB社は補てん義務を負わない。必要な処理を示しなさい。
- 5:03確認ケース3C社は売掛金800,000円を担保的に差し入れ、金融機関から790,000円の入金を受けた。契約上、売掛金が回収不能となった場合はC社が全額を補てんする。手数料10,000円が差し引かれている。必要な処理を示しなさい。
- 6:01よくある誤り有価証券の名称だけで処理を決め、保有目的を確認しない。 取得時の処理と期末評価の処理を同じ場面として混同する。 債権譲渡で現金受取額だけを見て、リスク移転の有無を見落とす。 買戻権や遡求義務の文言を読んでも、責任の内容まで検討しない。
- 7:38まとめこの分野は、まず金融資産の定義と取引目的をつかみ、その後に認識、測定、損益計上の順で整理することが基本です。有価証券は保有目的が処理を左右し、債権譲渡は現金化の事実よりもリスク移転の有無が重要になります。買戻権や遡求義務は、債権が本当に消滅したかを見極める中心的な材料です。数字の計算だけでなく、どの事実が判断の根拠かを明確にすることが得点力につながります。
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