設備投資会員向け9:18

設備投資の意思決定:将来キャッシュ・フローを現在へ戻す

資本予算の基本として、設備投資案のキャッシュ・フローを整理し、資本コストで現在価値へ戻して比較する考え方を学びます。投資案の前提確認、回収の見方、収益性の判断を同じ基準で行えるようにします。

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この講で分かるようになること

投資案の前提・回収・収益性を同じ基準で比較できる。

  • 投資案の前提条件を整理して比較対象をそろえられる。
  • 将来キャッシュ・フローを現在価値へ戻す計算順序を身につける。
  • 回収額の大きさだけでなく回収時期も踏まえて判断できる。

前提知識

  • 日商簿記2級の基本論点。

要点

  1. 資本予算では、投資額と将来キャッシュ・フローを同じ尺度で比較する。
  2. 投資判断の基礎資料は、利益ではなく追加的なキャッシュ・フローで整理する。
  3. 資本コストを用いて将来キャッシュ・フローを現在価値へ戻す。
  4. 投資案比較では、前提条件と計算基準をそろえて結論を出す。

判断のルール

  • 定義を確認し、何を比較する問題かを先に確定する。
  • 認識では、投資によって追加的に発生するキャッシュ・フローだけを拾う。
  • 測定では、各期のキャッシュ・フローを資本コストで現在価値に直す。
  • 計算後は、割引後金額の妥当性と比較条件の一致を検算する。

例題

例題11年後回収額を現在価値へ戻す基本ケース

ある設備案では、導入時に100,000円を支出し、1年後に110,000円のキャッシュ・インフローが見込まれる。資本コストは10%とする。この案の1年後回収額の現在価値と、初期投資との差額を求めなさい。

答え1年後回収額の現在価値=110,000円 ÷ 1.10 = 100,000円 差額=現在価値100,000円 - 初期投資100,000円 = 0円

考え方事実として、導入時に現金流出100,000円、1年後に現金流入110,000円、割引率10%が与えられている。将来の110,000円はそのままでは導入時の100,000円と比較できないので、1年分だけ現在価値へ戻す。1年後の金額を1.10で割れば現在価値になる。現在価値がちょうど100,000円となるため、初期投資との差額は0円であり、この前提では回収と要求される収益性が一致していると判断する。

確かめ10%で1年運用すると100,000円は110,000円になる。逆に110,000円を現在へ戻すと100,000円なので計算は整合する。差額0円は、割引後回収額と初期投資額が一致していることから確認できる。

例題22つの投資案を現在価値で比較するケース

投資案Aは導入時支出120,000円、1年後70,000円、2年後70,000円のキャッシュ・インフローを見込む。投資案Bは導入時支出120,000円、1年後40,000円、2年後90,000円のキャッシュ・インフローを見込む。資本コストは年10%とし、2年後の現価係数は0.826とする。各案の回収額の現在価値合計と差額を求め、どちらが有利か答えなさい。

答え案Aの現在価値合計=70,000円 ÷ 1.10 + 70,000円 × 0.826 = 63,636円 + 57,820円 = 121,456円 案Aの差額=121,456円 - 120,000円 = 1,456円 案Bの現在価値合計=40,000円 ÷ 1.10 + 90,000円 × 0.826 = 36,364円 + 74,340円 = 110,704円 案Bの差額=110,704円 - 120,000円 = △9,296円 結論=案Aが有利

考え方事実として、両案とも初期投資額は同じ120,000円であり、異なるのは回収時期と回収配分である。比較条件はそろっているので、各年のキャッシュ・インフローを10%で現在価値へ戻して合計し、初期投資額との差額を見る。案Aは回収の一部が早い時点にあるため、総回収額が140,000円で案Bの130,000円より大きいだけでなく、現在価値でも優位になる。案Bは2年後の比重が大きく、割引の影響をより強く受けるため、差額がマイナスになる。

確かめ案Aの名目回収総額は140,000円、案Bは130,000円で、現在価値にするといずれもそれより小さくなるのが自然である。1年後分は70,000円より63,636円、40,000円より36,364円と減少しており、2年後分も係数0.826でさらに小さくなっている。各案の現在価値合計から初期投資120,000円を引いた差額も数値関係に矛盾がない。

例題3追加的キャッシュ・フローを整理して判断するケース

新設備を導入すると、導入時に200,000円を支出する。毎年の売上収入増加は90,000円、毎年の現金支出増加は30,000円で、これが3年間続く。3年後に設備処分による現金回収20,000円を見込む。資本コストは年10%とし、現価係数は1年後0.909、2年後0.826、3年後0.751とする。この投資案の各年の追加的キャッシュ・フロー、現在価値合計、初期投資との差額を求めなさい。

答え各年の追加的キャッシュ・フロー=90,000円 - 30,000円 = 毎年60,000円 3年後のキャッシュ・フロー=営業による60,000円 + 処分回収20,000円 = 80,000円 現在価値合計=60,000円 × 0.909 + 60,000円 × 0.826 + 80,000円 × 0.751 = 54,540円 + 49,560円 + 60,080円 = 164,180円 差額=164,180円 - 200,000円 = △35,820円

考え方まず見るべき事実は、毎年の売上収入増加90,000円と現金支出増加30,000円である。投資判断では利益ではなく追加的なキャッシュ・フローを使うので、各年の営業による純額は60,000円と判断する。さらに最終年には設備処分による現金回収20,000円があるため、3年後だけは営業分60,000円に加えて80,000円になる。次に、各年の金額を与えられた現価係数で現在価値へ戻して合計し、最後に初期投資200,000円との差額を求める。差額がマイナスなので、この前提では採算が不足していると結論づける。

確かめ名目の総キャッシュ・インフローは60,000円+60,000円+80,000円=200,000円である。これを10%で現在価値に直すと164,180円となり、名目総額200,000円より小さいので方向は妥当である。差額△35,820円は、現在価値合計164,180円が初期投資200,000円を下回ることから確認できる。

よくある間違い

結論だけを急ぎ、どのキャッシュ・フローを含めるかの前提確認を省く。

利益の増減と現金の増減を混同し、投資判断資料を誤る。

割引計算の前に時点整理をせず、年数や係数を取り違える。

比較対象の投資期間や資本コストが異なるのに、そのまま優劣を判断する。

この講の用語

資本予算しほんよさん
長期的な設備投資について、必要資金と将来回収額を見積もり、実行の可否や優劣を判断する手続をいう。
投資案比較とうしあんひかく
複数の設備投資案を、投資額、回収時期、回収総額、現在価値など同じ基準で比べることをいう。
キャッシュ・フロー予測きゃっしゅふろーよそく
投資案により将来発生すると見込まれる現金の流入と流出を、時点ごとに見積もることをいう。
資本コストしほんこすと
投資判断で将来キャッシュ・フローを現在価値へ割り引く際の基準となる率をいう。

章立て

  1. 0:00導入この講の到達目標と、問題文を読む出発点を確認します。
  2. 0:23中心概念資本予算、投資案比較、キャッシュ・フロー予測、資本コスト
  3. 1:06重要用語資本予算、投資案比較、キャッシュ・フロー予測、資本コスト
  4. 1:48基本ルール定義を確認し、何を比較する問題かを先に確定する。 認識では、投資によって追加的に発生するキャッシュ・フローだけを拾う。 測定では、各期のキャッシュ・フローを資本コストで現在価値に直す。 計算後は、割引後金額の妥当性と比較条件の一致を検算する。
  5. 2:11判断手順取引事実または計算条件を確認し、使う勘定科目・計算順序・検算の順に進みます。
  6. 2:53確認ケース1ある設備案では、導入時に100,000円を支出し、1年後に110,000円のキャッシュ・インフローが見込まれる。資本コストは10%とする。この案の1年後回収額の現在価値と、初期投資との差額を求めなさい。
  7. 3:20確認ケース2投資案Aは導入時支出120,000円、1年後70,000円、2年後70,000円のキャッシュ・インフローを見込む。投資案Bは導入時支出120,000円、1年後40,000円、2年後90,000円のキャッシュ・インフローを見込む。資本コストは年10%とし、2年後の現価係数は0.826とする。各案の回収額の現在価値合計と差額を求め、どちらが有利か答えなさい。
  8. 4:31確認ケース3新設備を導入すると、導入時に200,000円を支出する。毎年の売上収入増加は90,000円、毎年の現金支出増加は30,000円で、これが3年間続く。3年後に設備処分による現金回収20,000円を見込む。資本コストは年10%とし、現価係数は1年後0.909、2年後0.826、3年後0.751とする。この投資案の各年の追加的キャッシュ・フロー、現在価値合計、初期投資との差額を求めなさい。
  9. 6:09よくある誤り結論だけを急ぎ、どのキャッシュ・フローを含めるかの前提確認を省く。 利益の増減と現金の増減を混同し、投資判断資料を誤る。 割引計算の前に時点整理をせず、年数や係数を取り違える。 比較対象の投資期間や資本コストが異なるのに、そのまま優劣を判断する。
  10. 8:25まとめ設備投資の意思決定では、将来のキャッシュ・フローをそのまま比較せず、資本コストによって現在価値へ戻し、同じ基準で判断することが基本です。前提確認、キャッシュ・フロー予測、現在価値計算、検算の順で整理すれば、回収と収益性をぶれずに比較できます。
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